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色褪せぬまま 見上げ歩くよ

煌びやかな世界の端っこ

どうして「涙のアトが消える頃」の「アト」はカタカナでなければいけなかったのか。

警視庁捜査一課9係*1season9の主題歌として選ばれた、「涙のアトが消える頃」。

涙のアトが消える頃

涙のアトが消える頃

 

 2014年の8月27日に発売されたV6の43作目のシングルで、美しいストリングスから始まるバラード、ミディアムテンポのラップが魅力的な一曲。9係の主題歌は毎回V6が担当していて、2014年もV6が担当すると知った時は、喜んだ。2013年は9係season8の主題歌である「君が思い出す僕は 君を愛しているだろうか」だけしかシングルの発売がなく、寂しい思いをしていた私としてはとても嬉しかったのを覚えている。V6が担当すると知った時、さらっと書かれていたタイトルが「涙のアトが消える頃」だった。何故、「アト」だけがカタカナなのだろうか。毎度表記するたびに疑問に思っていたので、個人的に少し考えてみる。

 

※以下、完全に個人のイメージを書き綴ったものです。

 

涙の「あと」が消える頃

「アト」をひらがなにしてみた。カタカナのときよりも、どこか穏やかなイメージが湧く。

ひらがなは、親しみやすさ、可愛らしさ、分かりやすさ、優しそうな感じを表現する場合によく使われる。子供向けの文章だったり、高齢者向けの文章には漢字よりも用いられることが多い。しかし逆に、幼い印象、幼稚な感じ、安っぽさにも繋がることもある。

この場合の、「涙のあとが消える頃」は優しさが伝わってくる。涙の筋が消えていく時に、あんなこともあったなぁと思い出しているような、はたまた、いい恋だったと諦めたかのようにもとらえることができる。しかしこの曲の歌詞は、どちらかというと未練がましい恋の終わりを描いている。「誰かと 一緒にいるなら 君しか思いつかない」なんて、恋を綺麗に終わらせた人間が言うものではない。しかも最後は「二度と戻らない 穏やかな幸せは 今も 色褪せることを知らない」である。二度と戻らないと知っているにも関わらず、幸せな思い出にずっと浸っているこの男。いや女なのかもしれない。そんな未練がましい人間が、諦めて綺麗な思い出にできるのだろうか。もしかしたらの可能性があるなら、その人はまた幸せに浸りたいと願うと予想できそうなその男(女)に、ひらがなを用いた「涙のあとが消える頃」は似合わない。

 

 漢字に当てはめてみる

漢字は文字を目で追いながら意味も理解できるので、分かりやすい、解釈しやすいとう点が、大きなメリット。同じ読み方の言葉をひらがなで書くとどちらの意味が分からない場合でも、漢字で見ると分かる。例えば、「さっき"きしゃ"を見かけたよ」だと、なんの"きしゃ"なのか全然分からない。「さっき"記者"を見かけたよ」「さっき"汽車"を見かけたよ」漢字にすると"きしゃ"が何なのか一目でわかる。漢字って素晴らしい。

しかし、逆に、漢字は、堅苦しいイメージ、難しそうな印象を与えることもある。漢字が多いと、ひらがなやカタカナの多い文章に比べて、ぱっと見た印象が「真っ黒」に感じ、読み手に圧迫感を与えたり、「読む気」をそいでしまう可能性もある。

さて、「アト」に似合いそうな3つの漢字を当てはめてみます。

 

涙の「後」が消える頃

あと【後】の意味 goo辞書より

1 人の背中の向いている方向。後ろ。後方。「子犬が―からついてくる」「郷里の町を―にする」
2 ある時点からのち。
㋐以後。「転んでから―のことは覚えていない」「―で悔やむ」「二年―には完成する」「問題の解決を―へ回す」⇔先。
㋑終了後。「番組の―で視聴者プレゼントがあります」
㋒死後。「―に残された子供」「―を弔う」
3 ある時点より前。以前。
「四五日―、おれが処へ来て何といった」〈魯文・西洋道中膝栗毛
4 連続するものの中で、次にくるもの。
㋐ある基準で並べた順番の、終わりの方。「名簿の―の方」⇔先。
㋑次の代わりのもの。「お―は何にしますか」「電車が―から―からやってくる」
㋒後継者。後任。「宣伝部長の―を決める」
㋓子孫。後胤(こういん)。「―が絶える」
㋔後妻。「―をもらう」
5 物事が終わってから残ったもの。
㋐残った部分。残された余地。「―の始末をつける」「―は次の機会に譲る」「追いつめられて―がない」
㋑なごり。あとあとまで心に残るもの。特に、思い出。遺徳。「―を引く」「祖父の―をしのぶ」
6 (副詞的に用いて)まだ余地のある状態を表す。今からさらに。「―一年任期が残る」「―三分で終了します」
7 (接続詞的に用いて)それから。「―、気付いたことはありませんか」

ここでは、【5 物事が終わってから残ったもの。㋑なごり。あとあとまで心に残るもの。特に、思い出。遺徳。】の意味を用いて考えてみようと思う。
涙の後が消えた頃。恋人との恋の終わり。その末に残ったものはなんだったのだろうか。瞼の裏に残った記憶をずっと引きずった男(女)は、過去に囚われて未練がましく幸せな思い出を連想する。男(女)はまだ恋人の事が好きだった。だからまだ愛の言葉を続けるのだ。「愛してるよ 愛してるよ」伝えていたはずの思いは届かなかったのだろうか。
漢字の「後」にしてみると、男(女)のその"後"について考えることができる。歌詞中は恋人との記憶に思いを馳せる男(女)に、別れた後の展開が気になるところだ。また、今回のPVの撮影時には1人1人テーマととても細かい設定がある。

透(43) (坂本昌行)
都内で飲食店経営。
美生(29)
都内のカフェ勤務。

 

  • 長野博ver. 『青天のヘキレキ』

圭輔(37) (長野博)
大手総合商社勤務。
ミチル(27)
日本画の修復師。

 

  • 井ノ原快彦ver. 『微笑みに隠したナミダ』

陽太郎(35) (井ノ原快彦)
保育士。
柴乃(37)
ピアノ講師。

 

  • 森田剛ver. 『君のためのサヨナラ』

樹(いつき)(32) (森田剛)
派遣会社社員。

美郷(32)
文具会社事務

 

航輝(34) (三宅健) 
車メーカーの営業マン。
菜々子(28)
コンパニオン。

 

旬児(33) (岡田准一)
新進気鋭のファッションデザイナー
真澄(45)
国内外で活躍するファッションデザイナー

 

さらっと書きましたが、本来の設定はものすごく長い。興味がある方は、V6のavexのHP、スタッフブログの2014年8月をどうぞ。さすがにリンク貼るのは怖い。

つまり、1人1人にその"後"を描くことができる要素がたくさん詰まっている。そう考えると、「後」という漢字を使った「涙の後が消える頃」もいいのかもしれない。

しかし、初歩的なことなのだが、「涙の後が消える頃」だと文法がおかしくなってしまう。「頃」と「後」はどちらも時期を表す意味を含んでいる。それを同じ文に二度も使うと少々おかしい。そうなると、「涙の後が消える頃」は日本語を正しく使っていないので却下になる。

 

涙の 「跡」が消える頃

あと【跡】の意味 goo辞書より
※後述の「痕」の意味も書いてあったので、それは除きました。

《「足(あ)所(と)」の意》
1 何かが通っていったしるし。
3 (建築物には多く「址」と書く)以前に何かが存在したしるし。
4 家の跡目。家督
5 先人の手本。先例。
6 足のあたり。足もと。

 ここでは、【 1 何かが通っていったしるし。】の意味を用いることにする。

まず、辞書で調べた時に、例文に「頬(ほお)を伝う涙の跡」という記述があったのだ。おお、文法上では全然問題が無い!涙の跡。漢字にしてもしっくりくる。恋人の事を思って泣いたのだろうか。幸せな過去を思い出したのだろうか。あの時の選択を後悔しているのだろうか。そのあとに流した涙の「跡」というのなら、納得ができる。「二度と戻らない 穏やかな幸せは 今も 色褪せることを知らない」そこの部分を歌っている時のPVで、岡田さん演じる旬児の目から涙の粒が流れ落ちる。井ノ原さん演じる陽太郎もとても苦しい顔をして、今にも泣き出しそうだった。その涙の「跡」。それが消えるのはいつになるか分からない。涙の跡が消える頃に、6人の跡の行く末が知りたい。
「跡」を利用した、「涙の跡が消える頃」が一番似合っている……と、言いたいところだが、漢字の中では有力な漢字が一つある。

 

涙の「痕」が消える頃

あと【痕】
※前述の「跡」の意味も含んでいたので、上に書いたものは除きました。
2 (傷には多く「痕」と書く)以前に何かが行われたしるし。痕跡。形跡。

この「痕」という漢字の例文は、「手術の痕」「苦心の痕が見受けられる」などがあげられる。どちらかというと、涙の「アト」に使用されるような印象はない。しかし、歌詞中に唯一「アト」を漢字にした部分がある。

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Cメロの坂本さんと井ノ原さんが歌い上げる歌詞に、「涙の痕」がある。歌詞の中で唯一「アト」を表現したものは「痕」という漢字によるものだけだ。
涙の痕が消えた頃。恋人と別れたことにより、心に出来た痕は痛みを帯びたまま、男(女)に残る。永遠を信じた、しかしその永遠を感じた日々は痕だけをつけて消えてしまったのだろうか。この「痕」を用いると、涙の「アト」は、「跡」で使われた涙の筋の意味ではなく、涙を流す要因になった傷を意味しているようにも感じる。消えないで残ったあとかたは、涙を染み込ませる。けれど、その涙の「痕」が消えた頃に、男(女)はどのようになっているのだろうか。意味深にも感じるが、「跡」とは違い、どことなく男(女)が恋人への思いを断ち切れずに引きずっているような印象を持つことができる。

 

じゃあ、漢字の「痕」でいいじゃないか。それでいいのかもしれない。

 

しかし、「アト」を漢字にしてしまうと、一つ問題点がある。それは、漢字の持つ意味によって、意味を固定してしまうことだ。「後」と「跡」と「痕」。3つの漢字から想像した意味は、どれも少し異なる想像を抱くことができる。だが、一つの漢字で固定化してしまうと、想像できるものは一つに絞られてしまうのだ。

 

涙の「アト」が消える頃 

では、最後に、曲名の方のカタカナで表記された涙の「アト」が消える頃について考えてみる。

カタカナは、カッコイイ印象を与えやすく、外国っぽくておしゃれな雰囲気を感じることができます。ひらがなとは違い、曲線の少ないカタカナは、角ばった形状から、スマートなイメージを生み出します。「えんぴつ」と「エンピツ」では、どちらの方が先っぽが尖っているように感じますか? 曲線が含まれることにより、柔らかい印象で先っぽが文字を書いたことで丸くなったようにも思えるひらがなの「えんぴつ」。曲線が少なく、角ばった印象で、まるでさっきまで研いでいたかのようにも感じる「エンピツ」。後者の方がなんだか尖っているように思えませんか? そういう風にカッコイイ印象を見た目で植え付けることもできます。また、外来語を表記する際にもカタカナが使われます。

カッコイイ印象を与えるカタカナですが、乱用すると、分かりにくい、頭に入りにくいというデメリットもあります。「明日ハイイ天気ダ」。漢字とひらがなを使うと「明日はいい天気だ」とすらっと読める文章が、カタカナと漢字だと読みづらく感じます。

さて、涙のアトが消える頃の「アト」ですが、尖ったようなイメージを持ちます。ひらがなと漢字だけで形成されそうな文に、突然現れたカタカナ。そこに一際目が行きます。そう、そこなのです。私が考えた中で、行きついた答えが、カタカナだと目を引くということです。

「アト」を意識することにより、その「アト」とはどんな意味を持つのか気になる。ひらがなの「あと」の柔らかな感じではなく、「アト」の尖った、どこか傷だらけな感じ。涙を流す理由はなんだったんだろう。その消える頃っていつなんだろう。歌詞は過去形と過去を連想させる言葉形成されており、男(女)の恋は終わっているのだと分かることができる。「強くなりたいと思ってたんだ」「伝えてたはずの想い」「今でも忘れられない」「日々は過ぎ去ってゆく」「信じる強さ失った」「二度と戻らない 穏やかな幸せ」どれをとっても、傷だらけの痛々しい思いが伝わってくる。

カタカナだと、印象付けにも最適だし、「アト」とはなんなのか思い浮かべることも容易だ。

 

総括

つまり、「涙のアトが消える頃」の「アト」はカタカナでいいのだ。むしろ、カタカナだからこそ、ここまでの連想ができ、個人によって読解が変化が楽しめるのだと思う。ひらがなだとさらっと流してしまうかもしれない。漢字だと意味を固定化してしまう。カタカナだからこそ、カタカナで表現できる味を出せたのだと私は結論を出した。

これもまた私個人の読解なので、別の人によって違った「アト」の汲み取り方があると思う。「跡」だったり「あと」だったり、そっちの方がいいわ!なんて人もいると思う。その時点で、「涙のアトが消える頃」の「アト」をカタカナにした意味が生きてくる。だって、「アト」だけがカタカナなのは何故か気になっちゃうでしょう? それだけで、インパクトのある曲名になるんです。

「涙のアトが消える頃」 カタカナで表記されたことにこんなにこだわったのは私だけかもしれないが、多彩なイメージが湧くとてもインパクトのある曲名だと思います。カタカナのスパイスが徐々に効いてくるこの感じ。考えれば考えるほど、カタカナに行きつくこの納得感。色々な表現ができるってとても楽しいことだと思った、そして考えさせられた曲名だった。

 

 

........余談。

何度も、男(女)の行く末を気にしたが、男(女)はもう結論が出ているのだ。

涙の痕が 消える頃に 僕は今よりもきっと 君を愛してる

 恋した僕は、痕が消えても恋人の事を愛していると言い切るくらいに、好きなのだ。

 

ここで「僕」という一人称が使われているということは一般的に考えると、未練がましい男(女)なのではなく、未練がましいのは男と言い切ることができることになる。ずーっと「男(女)」と書いていた自分が少し馬鹿らしくなります。でも、記念に書いていたまま残すことにします。何回「男(女)」って書いたんだろう…。

*1:以下、9係